浮気された話

浮気をされた。
彼に捧げた時間は、18歳の初夏から21歳の秋まで、2年と半年だった。
わたしが気付いたのが2年と半年を少し過ぎた昨日のことだったのだが、彼は少し前から、否もっと以前から犯行を重ねていた。
気付かなかった愚かなわたしの2年半はただただ幸せなものだった。

流されるまま彼に食住を提供し、なんなら金銭的援助もした。お互いの生活は混じり合い、共有してないないものの方が少ないくらいになった。

人生単位で恋をする、いわゆる「重い」女であるわたしは、彼を盲信しこの愛は本物だと恍惚に浸り、本当は気付くはずだった彼の不審な行動を見逃していたのだろうし、彼はそんなわたしをますます軽んじていったのだろう。

あっけない幕引きだ。
濃密な愛の時間であったはずの2年と半年は、ただの茶番に成り下がった。

浮気は病気だと言っていた人がいた。
その人もまた、浮気癖のある人だった。
「せんせい」
ぽっかりと空虚な響きだ。
自身は数々の女を渡り歩く癖に、彼女たちには自身以外の選択肢を与えないような横暴な人だった。
気付いた時にはわたしは捨てられていた。飽きられていた。
そんなものなのだ。
わたしだって数ある浮気相手の1人だったというだけのことだ。

でも今回は違う。
お互いがお互いを唯一だと認め合った仲だった。
先述のように、わたしは人生単位で恋愛をする「重い」女であるからして、彼の犯行は重大な裏切り行為であり、罪である。
罪には罰だ。罰を与えなければ。

咎を背負わせよう。
自身の軽率な行為で、1人の人間が命を絶つという咎を。
そしてきっと呪い殺して差し上げよう。そうしたら全部許してあげる。
地獄で手と手を取り踊ろうではないか。

やっていることは同じなのだ。
"あらゆる「初めて」を奪った"という枷で、奔放なあの人を繋ぎとめようとしていた頃と、なにも変わってはいない。
担保が命に代わっただけだ。

彼と出会ってからは、浮気なんて他人事だと思っていた。まるで不慮の事故にでも遭った気分だ。むしろ本当に不慮の事故で死んでしまいたい。初めからやり直そう。リセットボタンはどこだ。夢なら早く覚めてほしい。
それなのにわたしはこれから眠ろうとしている。眠気など全くないけれど、ベッドの上で横になって膝を抱えている。

眠れるわけがない。
裏切られたショックでまだ少し手が震えているし、なんだか体じゅう悪寒がする。
あたたかいものに包まれて、そのまま目覚めないまま死んでしまいたい。

明日はゼミだ。
いつもより早く起きて身支度をしなければならない。
きっと瞼はぱんぱんに腫れ上がっているだろうから。